お役立ちコラム 2024.11.15
産業用蓄電池とは?家庭用との主な違いから導入のポイントまで
産業用蓄電池は、再生可能エネルギーの効率的な活用や電力の安定供給を実現するための重要なソリューションとして注目を集めています。近年、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが加速するなか、太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入が進んでいますが、それと同時に蓄電池の役割も大きくなってきています。本記事では、業務用・産業用蓄電池の特徴や仕組み、家庭用蓄電池との違いなどについて詳しく解説します。
目次
産業用蓄電池の基礎知識
産業用蓄電池は、オフィスビルや商業施設、工場などの大規模な建物や施設に設置される蓄電システムです。電力の安定供給や電力コストの削減、災害時の非常用電源としての役割など、さまざまな用途で活用されています。ここでは、産業用蓄電池の基本的な知識について説明します。
産業用蓄電池の特徴と仕組み
産業用蓄電池は、大容量かつ長寿命であることが大きな特徴です。一般的な容量は10kWh台から20kWh台ですが、500kWhを超える大容量タイプも存在します。また、充放電を繰り返しても耐久性が高く、8,000サイクル以上の長寿命を実現するものもあります。蓄電池本体に加えて、UPS(無停電電源装置)やCVCF(定電圧定周波数装置)などの関連機器も併せて設置されることが多いのも特徴の一つです。
家庭用との主な違い
家庭用蓄電池と比較すると、産業用蓄電池は容量が大きいことが最も大きな違いです。家庭用が通常10kWh以下であるのに対し、産業用は数十kWhから数百kWhと、はるかに大きな容量を持っています。また、家庭用ではリチウムイオン電池が主流ですが、産業用ではリチウムイオン電池に加えて、ナトリウム硫黄電池(NAS電池)も用いられます。
電池の種類と特性
産業用蓄電池に使用される電池には、いくつかの種類があります。リチウムイオン電池は、高いエネルギー密度と長寿命が特長で、コンパクトな設計が可能です。一方、NAS電池は、大容量かつ高エネルギー密度、長寿命を実現できることから、大規模な施設に適しています。鉛蓄電池やニッケル水素電池なども用いられることがありますが、現在は性能面でリチウムイオン電池やNAS電池が主流となっています。
システム構成と管理方法
産業用蓄電池システムは、蓄電池本体だけでなく、パワーコンディショナー(PCS)、エネルギーマネジメントシステム(EMS)、監視制御装置などの周辺機器で構成されます。これらの機器が連携して、効率的な充放電制御や、電力の安定供給、電力品質の維持などを実現します。また、遠隔監視機能を活用することで、システムの稼働状況をリアルタイムで把握し、異常があれば速やかに対応できるようになっています。適切なシステム構成と管理方法を採用することで、産業用蓄電池の性能を最大限に引き出すことができます。
BEMS・FEMSの役割
産業用蓄電池システムの管理において、BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)やFEMS(ファクトリーエネルギーマネジメントシステム)が重要な役割を果たします。BEMSは建物全体のエネルギー使用状況を監視・制御するシステムで、空調や照明、蓄電池などの設備を最適に運用することで、エネルギー効率の向上や電力コストの削減を図ります。一方、FEMSは工場におけるエネルギー管理に特化したシステムで、生産設備や蓄電池などを統合的に制御し、生産性の向上とエネルギー効率の最適化を実現します。これらのシステムと連携することで、産業用蓄電池の性能を最大限に活かすことができます。
設置環境の要件
産業用蓄電池を導入する際は、設置環境にも十分な注意が必要です。蓄電池は気温や湿度の影響を受けやすく、極端な高温や低温、高湿度の環境下では性能が低下したり、劣化が早まったりする可能性があります。また、リチウムイオン電池の場合、過充電や過放電、短絡などによって発火のリスクがあるため、適切な保護機能を備えた安全な設置が不可欠です。さらに、大型の蓄電池システムは重量があり、床の耐荷重にも注意が必要です。設置場所の選定や施工に際しては、これらの要件を満たし、安全性と性能を確保できるよう、専門家の知見を活かすことが重要です。
導入のメリットと活用法
産業用蓄電池を導入することで、さまざまなメリットが期待できます。再生可能エネルギーの有効活用や電力コストの削減、事業継続性の強化など、企業経営に直結する効果が得られます。ここでは、産業用蓄電池の導入によるメリットと、その活用法について詳しく説明します。
経済性の向上
産業用蓄電池の導入は、長期的な視点で見ると、企業の経済性向上に大きく貢献します。ピークカット・シフトによる電力コストの削減や、補助金制度の活用による初期投資の軽減など、さまざまな経済的メリットが得られます。また、再生可能エネルギーの自家消費を促進することで、エネルギー自給率の向上にもつながります。
ピークカット・シフトによる電気代削減
産業用蓄電池を活用することで、電力需要のピーク時間帯に蓄電池から放電し、電力使用量を抑えることができます。これがピークカットです。ピーク時の電力使用量を減らすことで、基本料金の低減や、電力会社との契約電力の見直しが可能になり、電気代の削減につながります。また、夜間など電力料金が安い時間帯に蓄電池を充電し、昼間の高い時間帯に放電することで、電力コストを平準化するピークシフトも可能です。これらの手法を組み合わせることで、効果的に電力コストを削減できます。
補助金制度の活用
産業用蓄電池の導入には、初期投資が必要になりますが、国や自治体の補助金制度を活用することで、費用負担を大幅に軽減できます。例えば、経済産業省の「需要家側エネルギーリソースを活用したバーチャルパワープラント構築実証事業費補助金」や、環境省の「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」などがあります。これらの補助金を上手に活用することで、初期投資の回収期間を短縮し、経済性を向上させることができます。補助金の要件や申請方法は制度ごとに異なるため、専門家の助言を得ながら、適切に対応することが重要です。
事業継続性の強化
産業用蓄電池は、事業継続性の強化に大きく貢献します。自然災害や事故などによる停電時に、非常用電源として機能することで、事業活動への影響を最小限に抑えることができます。また、BCPの一環として、産業用蓄電池を導入することで、電力供給の確保や、重要設備の稼働維持などが可能になります。
非常用電源としての機能
産業用蓄電池は、停電時の非常用電源として、大きな役割を果たします。通常の電力供給が断たれた場合でも、蓄電池に蓄えられた電力を利用することで、重要設備の稼働を維持したり、非常用照明や通信機器の電源を確保したりすることができます。特に、災害時などの長期停電に備えて、大容量の蓄電池を導入しておくことが重要です。また、蓄電池と太陽光発電を組み合わせることで、停電時にも再生可能エネルギーを活用し、非常用電源の持続時間を延ばすことができます。
BCP対策への貢献
BCP(事業継続計画)は、自然災害や事故、パンデミックなどの非常事態に備え、事業活動の継続や早期復旧を目的とした計画です。産業用蓄電池は、BCPの重要な要素である電力供給の確保に大きく貢献します。停電時でも、蓄電池から電力を供給することで、生産設備や基幹システムの稼働を維持し、事業活動への影響を最小限に抑えることができます。さらに、蓄電池を活用して、電力の自給自足を進めることで、外部の電力供給に依存しないレジリエントな電力システムの構築が可能になります。BCPの観点からも、産業用蓄電池の導入は、事業継続性の強化に不可欠な要素と言えます。
環境経営への効果
産業用蓄電池の導入は、環境経営の観点からも大きな効果が期待できます。再生可能エネルギーの有効活用によるCO2排出量の削減や、エネルギー自給率の向上によるエネルギーセキュリティの強化など、環境面でのメリットが得られます。また、環境に配慮した企業姿勢を示すことで、ステークホルダーからの評価向上にもつながります。
CO2排出量の削減
産業用蓄電池を活用することで、再生可能エネルギーの自家消費を促進し、CO2排出量の削減に貢献できます。太陽光発電などで生み出された電力を蓄電池に蓄え、必要な時に利用することで、化石燃料由来の電力使用量を抑えることができます。さらに、ピークカット・シフトによる電力需要の平準化は、発電所の稼働効率を向上させ、結果としてCO2排出量の削減につながります。産業用蓄電池の導入は、脱炭素社会の実現に向けた重要な取り組みの一つと言えます。
エネルギーセキュリティの向上
エネルギーセキュリティとは、エネルギーの安定供給や自給率の向上を意味します。産業用蓄電池を導入することで、再生可能エネルギーの自家消費が進み、外部からの電力供給への依存度を下げることができます。これにより、エネルギー自給率が向上し、エネルギーセキュリティの強化につながります。また、災害時などの非常事態においても、蓄電池による電力供給が可能になるため、エネルギーの安定供給にも貢献します。エネルギーセキュリティの向上は、事業継続性の強化にもつながる重要な要素です。
導入時の注意点とデメリット
産業用蓄電池の導入は、多くのメリットをもたらしますが、同時にいくつかの注意点やデメリットについても理解しておく必要があります。特に、コストに関する課題は、導入を検討する上で重要な要素となります。ここでは、産業用蓄電池の導入時に注意すべき点やデメリットについて、詳しく説明します。
コストに関する課題
産業用蓄電池の導入には、初期投資とメンテナンス費用という2つのコストに関する課題があります。大規模な蓄電池システムを導入する場合、初期投資の規模が大きくなることが予想されます。また、蓄電池システムを適切に維持管理するためには、定期的なメンテナンスが必要となり、その費用も考慮しなければなりません。
初期投資の規模
産業用蓄電池の導入には、システムの規模に応じた初期投資が必要となります。蓄電池本体だけでなく、パワーコンディショナーや制御システム、設置工事などにも費用がかかります。大規模なシステムになればなるほど、初期投資の額は大きくなる傾向があります。一方で、将来的な電力コストの削減効果や、非常用電源としての機能など、長期的なメリットを考慮する必要もあります。初期投資の規模と、期待される効果を見極めながら、導入の是非を検討することが重要です。
メンテナンス費用の考慮
産業用蓄電池システムを導入した後は、定期的なメンテナンスが必要となります。蓄電池の性能を維持し、安全性を確保するためには、適切な点検や部品交換などが欠かせません。これらのメンテナンス費用は、システムの規模や使用状況によって異なりますが、長期的なランニングコストとして考慮しておかなければなりません。また、蓄電池の寿命は有限であるため、将来的な交換費用も視野に入れておく必要があります。メンテナンス費用を適切に見積もり、導入後のコスト管理に反映させることが重要です。
設備面の検討事項
産業用蓄電池を導入する際は、設備面での検討事項にも十分に注意を払う必要があります。蓄電池システムの設置には、一定の空間が必要となるため、必要スペースの確保が重要な課題となります。また、蓄電池の性能や安全性を維持するためには、設置場所の環境条件を適切に整える必要があります。
必要スペースの確保
産業用蓄電池は、大容量であるがゆえに、設置に必要なスペースも大きくなる傾向があります。蓄電池本体だけでなく、パワーコンディショナーや制御システム、配線などの付帯設備も含めて、十分なスペースを確保しなければなりません。また、メンテナンスや交換作業を行うためのスペースも考慮する必要があります。既存の建物や設備との兼ね合いを考慮しながら、最適な設置場所を選定することが重要です。
設置場所の条件
産業用蓄電池の設置場所は、性能と安全性を維持するために、いくつかの条件を満たす必要があります。蓄電池は、高温や低温、高湿度の環境下では性能が低下する恐れがあるため、温度と湿度の管理が重要です。また、リチウムイオン電池の場合、過充電や過放電、短絡などによる発火のリスクがあるため、適切な保護機能を備えた安全な設置が不可欠です。さらに、大型の蓄電池システムは重量があるため、設置場所の床の耐荷重にも注意が必要です。設置場所の選定と施工は、これらの条件を満たし、安全性と性能を確保できるよう、専門家の知見を活かして行うことが重要です。
まとめ
産業用蓄電池は、再生可能エネルギーの有効活用や電力の安定供給、事業継続性の強化など、さまざまな側面で企業経営に大きなメリットをもたらす技術です。一方で、導入に際しては、コストや設備面での課題があることも事実です。初期投資の規模やメンテナンス費用、設置スペースの確保など、導入時の注意点やデメリットについても十分に理解した上で、長期的な視点から導入の是非を検討することが重要です。また、導入に際しては、専門家の知見を活用し、自社の事業特性やニーズに合わせたシステム設計と運用を行うことが求められます。産業用蓄電池は、カーボンニュートラルの実現や持続可能な社会の構築に向けた重要な要素であり、今後さらなる普及が期待されています。本記事が、産業用蓄電池の導入を検討する際の一助となれば幸いです。
この記事を書いた人
TRENDLINE編集部
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